太正庵
トップ
プロフィール
ギャラリー
掲示板[別窓]
お絵描き[別窓]
リンク

webはくしゅ
お礼絵:現在3種類

コンコンコンッ。
ドアを叩く音がする。
「…あいてるぜ。」
少し間を置いて返事をする。
声を聞かなくてもノックする位置や力加減で長年の友人だと判る。
「予定なかったら今からお酒でも飲まない?」
と言いながらも手にはグラスや氷。飲む気満々じゃねぇか。
「お、いいねぇ。あたいも飲みたい気分だったんだよ。」
ふと見るとマリアの目線があたいの手元に注がれている。
広げて中を見せながら言う。
「ああ、これ?アルバムさ。」
「アルバム?」
グラスに氷を入れながらマリアが聞いてくる。
「ま、アルバムっていう程、写真ないけどさ。」
笑いながら答える。
今日はバーボンか。どっから持ってきたんだ?
「昔は写真自体、貴重なものよね。」
「あたいなんて年中修行してたから撮るような機会も少なかったからな。」
「見せてもらってもいいかしら?」
「ああ。面白いもんは写ってねぇけどな。」
丁度グラスと交換する形でアルバムを手渡す。
「あら、ずいぶん愁いを帯びた表情をした少女がいるわ。どなたかしら?」
写真に目を落としながら、変に真面目な口調で言う。
「だろ?昔から女優の素質があったんだろな。」
その言葉を無視しながらマリアが続ける。
「だけど、この時代に携帯型のカメラは無いはずだし、どうやって撮ったのかしら?」
先ほどの冗談を無視されて少し膨れた顔で答える。勿論本気じゃない。
「これか?これには色々あってさ。親父がさ、しばらくここで待ってろて言って、そのままどっか行っちまったんだよ。」
「んで、待てど暮らせど戻って気やしねぇ。仕方ないから近くのパイナップル畑を眺めてたんだ。」
「パイナップル畑?この大人びた表情をした少女の目線の先にはパイナップル畑があったの?」
話が見えないわ。そんな顔のマリア。
「そ。親父はさ、生活の中心が空手。だから美味いもんを食うとかそういう感覚は無し。美味いもんより栄養のあるもんを食う!って感じでよ。」
「でも、その頃のあたいはそりゃぁもぉ、甘い物や果物が食べたくて食べたくて。」
「だから誕生日や祝い事の時、欲しいものがあるか?って聞かれると決まってそういうのをおねだりしてたんだよ。」
「ふふっ。カンナらしいわね。」
既に二杯目をグラスに注ぎながら優しい微笑みを向けてくる。
椿が見たら卒倒もんだな。
「ひでぇなぁ。あたいだって昔から大飯食らいだったわけじゃないんだぜ?」
「そうね。あんなに食べる少女がいたら見てみたいものだわ。」
「あたいだって昔は可憐な少女で…」
「それでこの写真はどうやって撮ったの?」
台詞を言い終わる前に軌道修正されちまった…。



「ここの畑にあるの全部食えたら幸せだろうなぁ。って考えてたんだ。」
「今と変わらないじゃない。」
「あ…。そういやそうか。へへっ。まぁ、そんな事ぼぉーっと考えてたら激しい光とバシャって音がいきなりきてさ。ありゃびっくりしたよ。ほんと。」
「でも写真撮る時って三脚置いたりカメラを乗せたりするでしょう。いくら考え事してたからって物音と気配で気付かない?」
「それがさ。親父、カメラを肩に乗せたままシャッターを押したんだよ。」
「持ったまま?よくブレないで撮れたわね…。」
写真をまじまじと見ながら感心した感じでマリアが言う。
「あたいの誕生日が近いからひとつ記念に撮ってやろうと借りてきたって笑いながら言うんだよ。こっちはびっくりしてなにがなんだかわかんねぇってのにさ。」
「借りて戻ってきたら、我が子が物思いに耽ってたからつい撮ってしまった。今まで見た事無い顔だった。お前もそんな顔するようになったんだな。って。」
「確かに絵になるわね。父親じゃなくても見惚れるわ。」
「へへっ。嬉しい事言ってくれるねぇ。それでさ、何を考えてたんだって聞かれて。この畑のパイナップル全部食べられたら嬉しいなぁ。て答えたら大笑いしやがった。」
「ふふっ。そうね。まさかこんな顔でそんな事考えてるだなんて思わないものね。」
「まぁ、確かにそうなんだけどさ。あたい、大笑いされたのに腹を立てちゃってさ。ぶんむくれてたら親父が今度の誕生日、パイナップルを食えるだけ食っていいぞ。って。それでコロッと機嫌直っちゃって。子供は現金なもんだ。」
「…今のカンナにはまず言えない台詞ね…。」
冗談半分本気半分って感じだ。目線が斜め上を向いてる。食う量と費用を計算でもしてんのか?
「まぁ、子供の食える量だしたかが知れてると思ったんだろな。その日からあたいの頭の中はパイナップルの事でいっぱい。」
「どうにかして沢山食える方法を考えたんだ。考えた。って言っても空手しか知らない子供の考える事だ。出た答えは食う練習をする。だった。」
「間違いじゃないけど…どうしたの?なんとなく想像はつくけど。」
「空手もいっぱい練習すれば強くなる!ご飯もいっぱい食えば沢山食えるようになる!てなっちゃった。」
「…やっぱり。」
「誕生日までひらすら食った。それまでは同じ歳の子よりちょっと多いくらいだったけど、大人の食う量の倍くらい食ったな。親父はなぜか急に食い出したあたいに驚いてたけどいっぱい練習していっぱい食えって喜んでたっけな。」
「それで誕生日はどうなったの?」
「12個くらい食った所でダウンしちまった。今なら畑ひとつ分くらい楽勝なのにな。途中から近所の連中も見物しに集まってきちゃって。中には賭けにまでしちゃう連中まで出てきやがった。」
「カンナのお父さんに同情するわ…。」
「その後もそのまま食欲は戻らなくなっちまって。食った分だけ背もぐんぐん伸びて。こんななっちまった。」
「日本人離れしてるものね。私より高い女性に今まで会ったことなかったわ。」
「あたいもあたいよりでかい女に会った事ないんだよなぁ。」
「多分今後会う事はないと思うわよ。」
笑いながら言う。男を入れてもあたいよりでかいのは一人しか知らない。
でも年々、平均身長って伸びてるっていうし。
そのうちあたいを追い抜く女も出てくるかもしんねぇなぁ。なんてぼんやり考えた後、口を開く。
「そうかもなぁ。でもさ、あたいはこの体には感謝してるんだ。この体のおかげで帝都も守れた。舞台も上がれる。まぁ…たまには女役もやってみたいけどな。」
「私達じゃ男役の方が合ってしまうものね。」
パラパラとアルバムをめくっていたマリアの手が突然止まった。
何か気になる写真なんてあったっけか?
「あら、この写真、この間の戦闘の時のね。カンナ…随分隊長と近いわね。顔も少し赤いんじゃないかしら?」
し、しまった。後で隠しておこうととりあえず挿んだままにしてたんだった!
「ほ、ほら、あたい、先陣切っててみんなと離れてたからさ。撮影に遅れないように走ってきて、息が切れて…そ、それで赤いんだよ。」
「…そういう事にしとくわね。」
銀座から浅草まで走っても息が切れない貴方が?
そんな微笑みを帯びながらアルバムを閉じるマリア。
このままじゃマリアに主導権を握られたまま、何を聞かれるか判ったもんじゃねぇな。いっちょ牽制しとくか。
「そういやマリアだってこの間の作戦会議ん時、隊長とちょっと手が触れただけでえらい慌ててたじゃねぇか。さくらが心穏やかじゃねぇ顔で見てたぜ。」
ボトル半分空けても涼しい顔をしてたマリアだったが一瞬にして赤面する。
「あ、あれは地図に付けてた印を袖に引っ掛けて落としてしまったからよ。判らなくなるでしょ?隊長は関係ないわ。」
「へぇ…。ま、そういう事にしとこうか。」
記憶力と冷静さでは帝劇一を誇るマリアがねぇ。
ニヤニヤしながらマリアを見る。
面倒な話題を振ってしまったとバツが悪そうな顔をしてこっちを見ている。
んー。このまま微妙な雰囲気のまま飲むてのも面白くないしな。仕切り直しだ。
「どうせ飲んで起きれは前の晩の事なんて忘れちまうさ。ガンガン飲もうぜ。」
「ふふっ。そうね。酔った勢いじゃ仕方ないわね…。」
勿論、あたいもマリアも酔って記憶を無くした事は今まで一度もない。
この晩はマリアの新しい面をいくつか知る事ができた。
でも、あたいの事も色々と知られちまったんだよなぁ…。
いいような、わるいような…。




初めてのSSです。
カンナの長身と食欲の基ってなんだろう。と考えて書きました。
ゲームでしょ?大げさな設定にしてるんだよ。という声もありますでしょうが2m近く、年中修行、20歳前後となるとあの位の食欲でも問題なさげです。
18歳の頃空手をしてたのですが、多い時で一日8食+間食なんて時もありましたがそれでも体系はスリムな方でした。夏休みのバイト代を一ヶ月半で食べ尽くした時は我ながらあきれましたが。
そんなわけであれだけの長身になるには早い段階からいっぱい食う習慣がついたと考えた方が自然かなと。
オカルトかもしれませんが、小さい頃にあまりに筋力を付けすぎると骨が伸びるのを阻害して背が伸びないなんて話を聞いた事もあります。
が、親父さん適切な指導の下、しなやかな筋肉と適切なトレーニングで骨もすくすく伸びた事でしょう。そんな感じ。
初めての文章で不安がいっぱいなので色々感想を聞かせてもらえると嬉しいです。是非!宜しく!

≪BACK

Copyright(C)2006 TAISHOAN All Rights Reserved.